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なべ あし こう ぼう
鍋 足 の 弘 法 な か せ
むかしむかし、鍋足のふもとには、昼でも暗いぐらい木々がうっそうと茂った森が広がっていました。
この森が、あんまり黒々と茂っており、そしてあんまり広いので、土地の者でも迷ってしまう事があり、いつの間にか誰も近付かなくなってしまったということです。
ある時、一人の汚い坊さまが通りかかり、日も暮れかけてきたので、村人に一夜の宿を無心しました。しかし、泊めてやりたくても、どの家でもあいにくと都合が悪かったり、食べ物がなかったりということで、坊さまを泊めてあげられなかったそうです。
「ではしょうがない。野宿をしよう」と坊さまがつぶやくのを聞いた村人が、「そんならここをいくと小さなお堂があるんだが。でも坊さま、向こうに行くと深い森があって迷ったら大変だ。近づかんようにしな」と教えてやりました。
礼を言い、野宿の場所を求めて歩き出した坊さまは、あろうことか、さきほど止められたはずの森の方へと歩いていってしまったのです。
森の中は真っ暗で、昼も夜も、前も後ろも、左も右も、上下までわからなくなってしまいました。
「これはまずい。さっき教えられた森に入り込んでしまったぞ。早く抜け出さなければ大変だ」気持ちは焦るがどっちに行ったらいいか、さっぱりわかりません。つまづいて、あちこちにひっかき傷を負いながら坊さまは歩きつづけました。
どれくらい歩いたか、どのくらい時間がたったのか、それさえもわからなくなってしまった坊さまは、とうとうぺたりと座りこんでしまいました。
「なんで自分がこんな目にあわなければならない。自分も自分だ。なんでこんな所抜け出せない」情けないやら、口惜しいやら、次第に悲しくなってきて、とうとう坊さまは、大粒の涙を流しながら、大きな口を開けて、大声で泣き出してしまったそうです。
森の近くで畑仕事をしていた村人は、何だか人の泣き叫ぶ様な声が聞こえるのであやしく思いました。
「なんだっぺー」声が聞こえるのは、森の端っこの方。村人たちは森に入ってみました。すると、いくらも行かないうちにさっきの坊さまが大きな声で泣いているのを見つけたのです。「あれまあ、坊さま。もう泣くな」
すぐに森の外に連れ出された坊さまは、まだ、しゃくりあげていました。なんと、外はまだおてんとうさまがこうこうと照っているのです。さっき村人と別れてから、いくらも経っていなかったんだそうです。村人たちは坊さまを手当してやりました。
すると坊さまは、なんと「自分は弘法大師だ」と明かしたそうです。それ以来、この深い森を、土地の者は「弘法なかせ」と呼ぶようになり、森の中で大きな声で泣いていた弘法大師さまの話を語り伝えてきました。
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