なべあし    てん ぐ 
鍋 足 の 天 狗 と 七 つ の 滝

 むかし、みんながまだちょんまげを結っていたころ、ふもとの村からは鍋足山のあちこちに全部で七つの滝が見えました。
 けわしい岩山だったこの山は、白く流れ落ちる七つの滝のお陰でそれはそれは美しく見えました。その美しい姿が気に入って、鍋足山には一人の天狗が住んでいたそうです。
 ある日のこと、一人の猟師が獲物を探しに山にはいっていきました。でも、その日に限ってウサギ一匹姿をみせません。
「一体どうしたのがなあ。このままでは家で待ってるかあちゃんや子どもらに腹いっぱい食わせてやれねえ。何としても獲物を捕まえねえげなんねえ」
 気が焦るばかりで一向に獲物がとれません。そうこうするうち、山深く分け入ってしまった猟師は、とうとう道に迷ってしまいました。途方にくれて歩き回るうちに、七つの滝の内のひとつの滝つばにでたのです。
 のどの乾いていた猟師が、水を飲もうと滝に近づくと、滝の中に水ではない白いものがちらちらと揺れています。怪しげに思った猟師が滝の落ち口によじのぼってみると、なんと天狗が洗濯をしていたそうです。
 肝の太い猟師は、半分びっくりしながらも、何を洗っているのか知りたくてもっと近づいてみました。すると天狗が洗っているのは、なんと自分のふんどしだったそうです。
「ごしごし、ごしごし」
 洗ってみては水にさらし、一生懸命ふんどしを洗う天狗の姿を見た猟師は、とうとうこらえきれず、大さな声で笑いだしてしまいました。天狗はようやく猟師に気がついて、ふんどしを隠しましたがもう遅いのです。大笑いしている猟師に、ばつが悪そうに、「頼むから、わしが、ふんどしを洗っていたのは内緒にしてくれ」と何度も何度も言うのです。猟師はたくさんの獲物と自分をふもとまで送り届けてくれるかわりに、ここで見たことを決して人に言わないことを約束し、ふもとまで送り届けてもらったそうです。
 ところがこんな面白いことを黙っていられる訳がありません。
 とうとうある日、猟師はみんなに天狗のふんどし洗いのことをしゃべってしまいました。この話はその日のうちに村中に広がり、人々の笑い声は風に乗って、とうとう鍋足の天狗にまで聞こえてしまったのです。天狗はどうすることも出来ず、ただ恥じ入るばかりで、とうとういたたまれなくなって鍋足山から逃げ出して行ってしまいました。
 その時、天狗は村人への仕返しとして、鍋足山の七つの滝の水の全部を堰き止めて行ってしまいました。それ以来、鍋足山はただの岩山になってしまったそうです。
 七つの滝の名残りとして、いまでも大雨が降った後など、ふもとからは鍋足山のあちこちに滝が見えるということです。