鉄 砲 は づ や ん

 昭和の初めごろ、鉄砲といえば「村田銃」といって、弾は一発しか出ませんでした。一発撃ってはまた弾をこめ、獲物を捕るのです。
 ところが、小里村の大中に住む「はづやん」は、一発の弾で二羽も三羽も鳥を落とすことがありました。その鉄砲の腕前はとても素晴らしく、みんなから「鉄砲はづやん」と呼ばれていました。
 猟期が始まると、使い慣れた鉄砲を持ち、犬を連れて毎日山に入って行きました。そのころは、今と違って鉄砲を待っている人も少なく、どの山にもキジやヤマドリ、イノシシやウサギなどがたくさんいました。夕方山から帰ってくるときは、背中のしょいこには必ずたくさんの獲物が入っていたそうです。「鉄砲はづやん」の評判を聞いて、遠くの町から来る鉄砲ぶぢたちは、よく案内を頼みました。「鉄砲はづやん」は喜んで山を案内しました。
 その日も、町から来た三人の鉄砲ぶぢを連れて山に入りました。犬が鳥を追い出し、三人の鉄砲ぶぢが一斉に「ドン、ドン、ドン」と鉄砲を打ちました。しかし、弾は当たらず、鳥は遠くへ飛んでいってしまいました。
 その時です。「鉄砲はづやん」がパッと鉄砲をかまえ「ドーン」と撃ちました。遠くを飛んでいた鳥がみごとに撃ち落とされました。その秘訣を聞いたところ、「目がよがねえげだめだ」というのです。
 三人の鉄砲ぶぢは改めて「鉄砲はづやん」の腕前の凄さに感心してしまいました。「鉄砲はづやん」は、ウサギもよく捕りました。ウサギを捕るときは、まずウサギの通り道を探さなければなりません。山に入りウサギの糞を手掛かりに通り道を探すのです。ある時などは、通り道の近くに隠れていた「鉄砲はづやん」に気が付かないウサギを素手で捕まえてきてしまいました。「鉄砲はづやん」と異名をとったのは、正確な鉄砲の腕前もさることながら、動物の習性や山の地形などを詳しく知っていたからです。
 むかしから、「一犬、二足、三鉄砲」と言われていますが、「鉄砲はづやん」は毎日欠かさず犬の訓練や、山を速く歩く頑丈な足を鍛えていました。
 そして、獲物を撃つ場合は必ず、鳥なら飛んでいる鳥の目を撃ち、イノシシなど大さな獣はアバラ三枚目の心臓を撃ちました。
 一発必中、これは、殺さなければならない獲物に余計な苦痛を与えないための「鉄砲はづやん」の心だったのかも知れません。